2023年02月09日

会館だより「かけはし」


「白く見えるのは水蒸気です」か?

 1年の中で最も気温が低くなる日があるのは、1月の終わりから2月中旬にかけてです。北海道では氷点下40℃以下になることがありますし、沖縄でも、10℃以下に下がることがあります。今年は都心でも、1月の終わりに氷点下4℃まで気温が下がりました。東京都心の観測史上最も気温が低かったのは、1876年(明治9年)1月13日で、氷点下9.2℃です。

 人間が定住する場所で最も寒い場所とされているのは、ロシア東シベリア・サハ共和国のオイミャコンで、1933年に氷点下67.7℃を記録しました。しかし、夏には30℃を越えることもあり、寒暖差の激しい土地としても知られています。釣った魚はすぐに凍りつくので冷凍庫の必要はなく、細菌やウイルスの感染症にもほとんどかかることはありませんが、新型コロナウイルスは気温の高低に関係なく活発に活動するらしく、多数の感染者を出しているそうです。

 ところで、寒い日に外に出ると吐く息が白く見えますが、そんな日には、吐く息だけではなく、ほかにもいろいろなところから白いものが見えるようになります。

えんとつ.png 以前、「ごみ焼却施設の煙突から、たくさんの煙が出ている」という苦情を受けた自治体の担当者が、「煙突から出ているのは、煙ではなく水蒸気です」と答えたら、納得してもらえたという話を聞いたことがあります。果たして、この答えは正しいでしょうか。

 日本の小学校では、「水蒸気」は水が気体になったのもので、目に見えないものだということを学習します。目に見えるのは、水蒸気が冷やされ小さな水の粒になったもので、それを「湯気」と呼ぶということも学習します。そうすると、煙突から出ていた白いものは、水蒸気ではなく、湯気だったということになります。でも、「水蒸気という言葉を聞いてどのように感じるか」というアンケートを採ってみると、多くの人が、水蒸気は、白い色をしていると答えるそうです。また、湯気という言葉については、やかんなどの先から勢いよく噴きだす、白いふわふわしたものと感じているそうです。

やかん.png 沸騰しているやかんの口の先をよく見ると、口の近くでは何も見えず、口から少し離れたところから白く見えだすことがわかります。つまり何も見えない部分が水蒸気で、白く見えるところが湯気なのです。白く見えていた湯気が、再び見えなくなってしまうのは、小さな水の粒が空気中に広がって水蒸気にかわり、空気の一部になるからです。洗濯物が乾くのも、花瓶の水が減っていくのも、すべて水が水蒸気に変わったからです。  (T.Y.)
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2023年01月12日

会館だより「かけはし」


カルガモのあしは冷たい水の中でも平気

〜水鳥のあしの仕組みとロスナイ換気の仕組みの共通項〜


 今年は寒い日が続きます。早朝、健康のためにと近くの公園に散歩に行くと、凍るような池の水に、カルガモがのんびりと浮いているのを見つけました。カルガモ.jpg

 鳥の羽が野外の寒さからその身を守ることは、私たちが羽毛布団にくるまってみればよくわかります。しかし、あしの先には羽毛がありません。もしも人間が冬の冷たい池の中に手や足を入れていたら、たちまちしもやけになってしまうし、ひどいときには凍傷になって、その部分の組織が死んでしまいます。しかし水鳥のあしが、しもやけになったり凍傷になったりしたという話は、聞いたことがありません。なぜ水鳥は、冷たい水の中にあしを入れていても、平気でいられるのでしょう。

 鳥の体のいろいろな部分で、体温がどう違うか調べてみると、胸のあたりは40℃前後あるのに対し、あしの先は5℃〜7℃くらいしかないことがわかります。常にあしが水に浸かっている水鳥の場合には、0℃近くまで下がっていることもあります。人間の足の組織は、このような低温には耐えられませんが、鳥のあしの組織は、低温でも平気なようにできているのです。また、鳥では、あしの動脈と静脈が接近していて、ここで動脈の血が静脈に冷やされ、静脈の血が動脈に温められるので、体全体が冷えてしまうということがありません。このような体の仕組みのおかげで、カルガモは平気で池に浮いていられるのです。

 さて、これと似ているのが、「ロスナイ換気」と呼ばれる建物の仕組みです。冬は、換気のために空気を外に出すときに、室内で温められた空気で外から取り込む空気を温め、夏は反対に、室内で冷やされた空気で外から取り込む空気を冷やす(熱交換)、という装置です。

ロスナイ1.png 成美教育文化会館のホールとギャラリーは、空調を作動させると、換気口に吸われた館内の空気の半分は外に出し、外から取り込む空気の半分は、ロスナイ換気によって温度を変えられた新鮮な空気になります。この仕組みによって、ドアを閉めきっていても、十分に換気が行われているのです。

 その他の部屋については、一本一本の蛍光管の裏に換気口(会議室や和室などは別な場所)が開けられていロスナイ2.pngて、室内の照明をつけると、天井裏のファンが作動してロスナイ換気が行われる仕組みになっています。元々は、閉め切っていても室内の空気が汚れないようにという目的でつけられた装置ですが、コロナ禍で換気が必要とされるなかでは、安心して利用できる施設になっていると思います。            (T.Y.)

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2022年12月01日

会館だより「かけはし」


お風呂のお湯はなぜ上の方の温度が高い?

〜 この冬の省エネに、科学の原理から迫る!! 〜

お風呂.png だんだんと寒くなってきて、お風呂が恋しい季節になりました。浴槽に適温のお湯をためる方式のお風呂には当てはまりませんが、冷たい水を温める方式のお風呂では、丁度いいと思って入ったのに、下の方はまだ温まっていなかったという経験をしたことがあるのではないでしょうか。

 『物の温まり方は三種類! @伝導 A放射 B対流』

  @ 「伝導」は物の中を熱が伝わる温まり方です。熱い紅茶のカップに入れた金属のスプーンの元のところが、だんだんと熱くなっていくのがその例です。

  A 「放射」は「輻射(ふくしゃ)」ともいい、雲の間から太陽が顔を出すと即座に暖かく感じるのがその例です。太陽からの放射熱が、遠くから何もない宇宙空間を旅して、地球までやってくるのです。

  B 「対流」は水や空気がぐるぐる動いて、全体が温まっていく熱の伝わり方です。最初に挙げたお風呂のお湯の温まり方はこの例の一つです。

 『対流は対流しない?』

対流@.png ところで、書物で「対流」のところの解説を読むと、お風呂は下の方の温められた水が上に移動し、上の方の温かい水が下に移動して、ぐるぐる回りながら全体が温まっていくと書いてあります。でも実際には、かきまぜないと、なかなか全体が温まってくれません。このようなことは、珍しいことではありません。ストーブで暖められた部屋の椅子の上に立ってみると、下の方に比べて上の方がずっと温度が高くなっていることがわかります。ですからこの場合は、温度が高くなった空気や水は、だんだんと上の方にたまっていくというのが、正しい情報だと言えます。では、なぜ本に書いてある通りにならなかったのでしょう。

 『熱源が弱いと、対流は起きにくい!』

サーキュレータ.png 本に書いてある通りにならなかったのには、いろいろな原因が考えられますが、最も多いのは、熱源からの影響です。短時間に強い対流を起こすためには、かなり強い熱が必要なのです。鍋に水を入れて、コンロで端の方を熱すると、下の方の水が上がっていき、ぐるぐるまわりながら、やがて全体の温度が高くなっていきます。この時、鍋にお味噌などを少し入れてみると、動いている様子がよくわかると思います。

 温度の高い水や空気が、上の方にたまってしまったのは、熱源が弱いと、十分な水や空気の流れが起きないからです。でも水や空気が移動して、だんだんと全体の温度が高くなっていくという対流の温まり方には、違いありません。熱源が弱くても、長い時間かかれば、やがて全体が同じ温度になっていきます。                    (T.Y.)

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2022年11月11日

会館だより「かけはし」


イチョウは「生きた化石」といわれてるんだって!?

 イチョウが一年で一番目立つのは、葉が美しい黄色になる、秋の終わり頃です。

 イチョウは、「生きた化石」といわれることがあります。また、どこにでも生えていると思われがちなイチョウですが、不思議なことに、人が住んでいない山の中では、ほとんど見ることができません。

 化石などの調査から、イチョウの仲間は以前10種類以上あり、1億5000万年前には、地球上の多くの場所に生えていたことがわかっています。ところが、恐竜が絶滅した6600万年前、イチョウのほとんどは絶滅してしまい、中国の奥地に、たった1種だけ生き残ったのが、現在見られるイチョウなのです。また、化石で見られる葉の様子は、今と少しも違っていません。イチョウが「生きた化石」といわれるのはそういう理由があるからです。

イチョウ並木.jpg イチョウがよく見られるのは、道路や公園、神社やお寺、学校など、人が生活している場所か、その近くです。このことから、日本で見られるイチョウは、自然に生えたものではなく、人が植えたものだということがわかります。

 イチョウが、いつごろ中国から日本に伝わったのかは、まだよくわかっていません。しかし、千年以上前であることは確かです。秋に美しく黄葉し、幹は材木になり、葉や種子は薬や食べ物になるので、あちこちに植えられた結果、どこにでも見られる木になったのでしょう。

 このように、日本では身近に見られるイチョウですが、ヨーロッパに持ちこまれたのは、17世紀後半になってからです。当時、日本を旅したドイツの博物学者エンゲルベルト・ケンペルが、珍しい木として、ヨーロッパに紹介したのが最初と言われています。その後あちこちに植えられ、今ではヨーロッパだけでなく、アメリカの東海岸でもよく見られる木の一つになりました。

銀杏.jpg さて、イチョウの種子であるギンナンは、食べればほろ苦くおいしいですが、種子のまわりは、我慢できないほどの匂いです。しかし街路樹のイチョウには、ギンナンができません。神宮外苑や甲州街道には見事なイチョウ並木がありますが、その下にはギンナンが落ちていません。実は、イチョウには雄の花しか咲かない雄の木と、雌の花しか咲かない雌の木があり、ギンナンは雌の木にしかできないのです。街路樹として植える場合は、ギンナンができないよう、雄の木だけを植えるのが普通だからです。

 東京都福祉保健局のホームページには「食品衛生の窓」というページがあります。それによると、ギンナンを一度に多く食べると、おう吐、下痢、呼吸困難、けいれんなどを起こすことがあるそうです。しかし、中毒例として挙がっているのは、いずれも50個以上食べた際のものですから、少し食べるくらいは問題ないようです。(T.Y.)

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2022年10月06日

会館だより「かけはし」


地球は大きな磁石だ 〜磁石の指す向き〜

地球は磁石.jpg 方位磁針は、N極が北を指し、S極が南を指して止まります。でも正確にいうと、これは「北」を「北の方」、「南」を「南の方」という言葉に置き換える必要があります。それはどうしてかというと、磁石の指す北は、実際の北より少し西にずれているからです。どのくらいずれているかというのは場所によって違いますし、昔と今でも違います。現在、磁石だけを頼りに北へ100mまっすぐに進むと、北海道の稚内では20m弱、東京では10m以上、沖縄の那覇でも5m以上、西にずれた場所に行ってしまいます。

 では、なぜこのようなことが起きるのでしょう。実は、磁石が指すのは北磁極であって、北極点ではないからです。北磁極があれば南磁極というのもあるわけですが、どちらの磁極も、毎日のように少しずつ位置が変わっています。

歳差運動.jpg 200年前、日本で初めて正確な日本地図を作ったのは、伊能忠敬です。彼が全国を測量して歩いていた頃、磁石の北と地図の北は、ほぼ一致していました。しかし現在、北磁極は北極点から約1500km離れた所にあるため、日本では、北へ向かって歩くと、北の地方ほど西へずれてしまいます。南北方向がはっきりわかる大きな公園などに行くことがあったら、磁石を頼りに歩いてみて、方位のずれを体験してみると面白いでしょう。

 さて、古い地層の岩石を調べると、昔の地球の磁極の様子を知ることができます。それによると地球の南北は、過去に何回も入れ替わっていて、最後に南北が入れ替わってからでも約70万年経つそうです。そのため、そろそろまた逆転すると考えられていますが、南北の逆転は千年も一万年もかけてゆっくり行われるらしいので、朝起きたら突然南北が入れ替わっていた、ということはないようです。(T.Y.)

posted by 豊島修練会 at 11:28| 会館だより「かけはし」 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする